横山大観が大正12年に発表した全長40メートルに及ぶ絵巻物《生々流転》。
それまでの画業の集大成といわれ、
「大観氏近来の大作たるのみならず、芸術界の一枚収穫」などと圧倒的な評価を得ました。
大観はなぜテーマに水を選んだのでしょうか?
師・岡倉天心が老荘思想を重んじていた影響もあり、大観は老子の教えにも深く共感していたようです。
老子の教えの中に、みなさまご存知の「上善如水(上善は水の如し)」があります。
最上の善(最も理想的な生き方)は水のようなもの。水は万物に偉大な恵みを与えながら、自己主張して他と争うことはせず、人々の嫌がる低地をすみかとします。だから無為自然の道(タオ)の在り方に近い…
柔軟に形を変え、謙虚さを忘れず、ある時は岩をも動かす水のように、私達もしなやかに生きたらいいという教えです。
宇宙・自然の流れに逆らわず、自分らしく生きることを説いた老子。「上善如水」の思想を反映し、大観は生々流転の主題に水を選んだのだろうという指摘があります。
地球表面の7割、人体も約7割が水。この地球は水の惑星です。大観がテーマに水を選んだのは理にかなっている気がしますね。
さて、本作の書《生々流転》。上記の絵巻物と同時期に描かれたものだと思われます。106×96.5㎝という大きさがあり、立派な佇まいです。経年変化による落ち着いた色合いの銀箔に墨が馴染み、渋みのある味わいも魅力です。
(文/青龍堂 小川)
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