今回ご紹介するのは菱田春草の「元禄美人」です。
画集には見開き1ページで載っている作品なのですが、今まで展覧会には出てこなかった新発見のような出会いです。
『伊勢物語』第9段「八橋」のイメージからこの作品を描いたのだと思われます。
です。
物語では、失意の中、京の都から東国に旅する男が、三河国八橋(みかわのくにやつはし)というところにさしかかります。ここは川の流れが八つに分かれていて、それぞれに橋がかかっているので八橋と呼ばれていました。そこに咲く花「かきつばた」の5文字を頭において男が旅の心境を詠んだのが「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ」という和歌です。もともとは、遠い都と妻を悲しく思うという内容です。
春草の美人画は少ないのですがほとんどうつむき加減で物想いに耽っているような感じです。この作品の元禄の美人も同じで、観音さまのような優しい慈悲深い表情をしています。
(文/青龍堂店主)
菱田春草 「元禄美人」
62.1㌢×48㌢
菱田春男箱 軸装
画集掲載No.48
東美鑑定評価機構
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