今回の作品は速水御舟の「花の傍」の完成前の最後の大下図です。
日本画の大作の場合は、小下図から始まって完成作品に近い大下図まで作っていきます。
この下図を元にして描かれた完成作品は歌舞伎座が所蔵しております。
御舟のこの時代は、現代風の風俗画に新たに取り組んでいました。
この作品の2年前に発表された安井曽太郎の「婦人像」の影響とも言われております。
速水御舟はまさに天才と言われ、その画風や技術は惜しむ事なく、次から次へと常に変化していきました。
その短い生涯は、飽くなき探究心の強さで燃え尽きたかのようです。
この作品では幾何学的な画面構築に目が向けられていて、御舟の大変な意欲作となっています。
その様子は、下図の所々で窺い知ることが出来ます。
着物、テーブルクロス、椅子の模様、床、犬の毛並、女性の髪、ダリヤの花と線と線との交わりや重なりを観察してみて下さい。それぞれの持つ模様や線の面白さを追求しているように感じます。
線の重なりと図形の組み合わせが幾何学ですね。
大下図はこのように部分ごとに切ったり貼ったりして完成に近づけていきます。
2度失敗して3度目にようやく完成にこぎつけた作家の苦心の程を垣間見ることが出来るのも下図ならではですね。
(文/青龍堂店主)
作品情報
速水御舟《花の傍》大下図
161.4×101.6㎝
紙 鉛筆・水彩
1932年
吉田耕三鑑定シールあり
「速水御舟(ニ) 写生・下絵」
学習研究社 No.126 掲載
#速水御舟
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