玉堂先生は親しい方のお子さんが戦争に行ったと聞くと、必ず無事に戻ってくるようにと虎の絵を描いて差し上げていたそうです。
「虎は千里行って千里帰る」。虎は1日に千里の距離を走るが、巣穴にいる自分の子供を思って、また千里走って帰ってくる。親が子を思う気持ちの強さをたとえた言葉があります。
ただ、今回ご紹介するこの作品はどうもどなたかに差し上げた虎の作品ではないようです。
差し上げた作品はどこかに「〇〇君へ」と入っています。一見入っていないように見えても、消してあったりします。
(名前が入っていると「為書き」と言って売りづらくなるから、消しちゃうんですね。)
しかし、この作品にはそんな形跡もありません。
また、虎の表情も、寝起きにふとこちらを見ているかのようなとてもおおらかな表情をしています。
何かを目で訴えてますね。
絹本や紙ではなく着物の生地のような布に描かれたすごく洒落た小品に仕上がっています。
年末まで手元にあったら年賀状に使いたいと思うくらい魅力的です。
(文/青龍堂店主)
作品情報
作家名 川合玉堂
作品名「乕」
共箱 20.6㎝×17.7㎝
登録あり
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